伝統の10番、リケルメが引退した。絶滅危機にあった背番号10番は、リケルメの引退によって完全に絶滅した。リケルメは、ペレやマラドーナに肩を並べ、ジーコやプラティニ、ジダンを超えるボールコントロール技術とファンタジーを持っていた。リケルメのボールコントロールは技術の領域を超え、芸術だった。ピッチ中央に君臨し、ボールをキープして前線のFWを操り、必殺のラストパスで相手DFを切り裂いた。
最近ではメッシが走らない、動かないと注目されているが、リケルメはもっと動かなかった。リケルメが動かなくてもボールは動いた。リケルメを経由したボールは意思を持った生き物のように動いていた。リケルメは、パスを足元でしか受けない。どんなにマークされても、どんなに囲まれていても味方には足元のパスだけを要求した。DFに囲まれてもボールを取られない。リケルメのボールキープは時間が止まっているようだった。そんなリケルメのプレーは現代サッカーの戦術やシステムと別世界のものだった。
現代サッカーは戦術が細分化され、コンピュータによるデータ化とゲーム解析も進歩した。こんな時代にリケルメは、サッカーが無機質な数字を競うものではなく、技の切れ味や絶妙さ、そしてその美しさ競うものであることを表現し続けた。ペレの時代に生まれていたら、リケルメは、どんな輝きを見せただろうか?
生まれる時代を間違えた偉大な内弁慶、史上最高の10番、リケルメのプレーはもう見ることができない。