スタートが遅くなった今年のバカンスは「東の果ての国」に行ってきた。かつてジパングと呼ばれた国だ。こんな国でもフットボールを見ることができた。ヨーロッパはオフシーズンでバカンスを楽しむ時期にこの国はプロリーグが始まっていた。最高気温は30度を超えフットボールをするにはとても厳しい季節にも係らず真面目で勤勉なフットボールをしていた。技術や戦術面ではヨーロッパの強豪国と比べるとまだまだだったが、個々には気になる選手も見られた。これからが楽しみな国だ。クラブチームはまだまだだが、代表チームはワールドカップに5回連続で出ていた。今回のワールドカップも予選敗退だったと記憶しているが、クラブチームを見ただけなので正確なことはいえないが、ワールドカップで結果を出すには足りないものがいくつかあるように感じた。
1つは、技術が画一的なことだ。個々の技術は高いレベルに見えるが、とても正直な、教科書に書いてあるようなものだ。こういう技術ばかりだと、対戦相手にとってマッチアップした一対一の中では予測しやすく、恐くないものだ。トップと言われる選手もそういうふうに見えた。止める、ずらす、蹴るは巧くできるがあくまでもプレッシャーが少ないときだ。プレッシャーがかかってしまうと一気に並み以下のレベルになっていた。意表をつくプレーや相手をだますプレーがほとんど見られなかった。ダイレクトプレー、フェイクプレーが少ないことが原因であろう。相手だますようなプレーをすることを育成レベルの段階で身につけさせる指導が足りないのかもしれない。かつてのようにストリートでボールを蹴っていると体が自然に覚えたものだが、この国ではそんなこともできないのかもしれない。ストリートの減少による技術の画一化はヨーロッパにも言えることだ。先進国と言われる国でストリートフットボールをすることは、ほぼ不可能な時代になってしまった。
2つ目は、動くことの理解だ。よく走ることが弱点になっているように見える。真面目な国民性なのかもしれない。特に気温が30度を越すような季節にゲームをするのであれば走りすぎてガス欠になりミスを重ねてしまう。どんな強靭な選手でも90分間走り続けることは不可能と言える。どんなに動く選手も90分で12キロが限界だ。ドイツ人はこの点が異常と思えるほどだが。どこでスピードを上げるか、どこでスローダウンするかを理解していることが重要だ。そしてボールを動かすことを最優先にプレーすることだ。ボールは絶対に疲れないと何度も言い続けてきた。いつ走り、いつ歩き、いつ止まるかを体が覚えるようにしなければならない。
そして最後は、ゲームを観る力と読む力が足りないように感じた。これはフットボールゲームでは最も重要でゲームを決めることができるものと言ってもいい。ゲームを観る・読む力は、ボールの動きを予測する力と置き換えてもいい。ボールの動く未来を予測できたらこんな強いことはない。いつも相手より先回りができるからだ。想定内と想定外という表現があるが、ここで言っている読む力とは、想定内は当然当たり前に対処すること、想定外も普通に対応できる創造力が働くことだ。創造性というと一握りの天才やファンタスティックな選手のものと思うかもしれないがそうではない。創造性はこれこそ真摯な正しい観察力と思考力によって身につけられるものだ。そんなプレーをする選手がFWであろうがMFであろうがDFあろうがゲームを決めるはずだ。そして想定外を起こす天才を簡単に止める、かわすプレーができる選手こそが優れたフットボーラーだ。
バカンスに行った東の国でもフットボールを見てしまったので京都にも富士にも行くことができなかった。それは次の機会にしよう。ところで蛇足のようになってしまったが、この東の国の女子サッカーはすばらしい内容だった。女子の技術レベルとしては世界最高クラスだ。男子でもここまでできない国もある。アメリカやドイツのような力任せにプレーするのと違い男子のスペイン、いやかつてのアヤックスのようなパスサッカーをしていた。惜しいのはスピード豊かなウイングプレーヤーがいないことだ。DFのビルドアップも中盤のパスワークもすばらしい。前線の選手も若くていい選手がたくさんいる。世界ランクを聞いたら「3位」というので驚いた。この国の男子クラブチームより数段いいサッカーだったので世界ランクは嘘ではないと思った。この国は、フットボールにおいては明らかな女性上位の国だと初めて知ったよ。
さて、ヨーロッパクラブシーンが新しいシーズンを迎えるこの時期はいくつになっても心が躍る。今年はどんないいフットボールが見られるか期待が膨らむ。そしてユーロの予選も始まるので各国の新しい代表もとても楽しみだ。