アンヘル・ジアブロは、矢野明也に勝つためにプレーをしていた。矢野明也は、マンチェスターユナイテッドに勝つためにフットボールをした。結果は、引き分けだが、勝てなかったアンヘルと負けなかった明也というのがこの日のゲームだった。
アンヘルは、十分すぎるほどアーセナルを苦しめた。史上最強のアーセナルU−17チームを1人の力で初黒星寸前まで追い詰めた。だが、ユナイテッドの限界は引き分けだった。
フットボールは、個人競技ではない。チームとして競争優位性を保ち、チームとして同じ方向に向かわなければならない。ユナイテッドはその点が、アーセナルに劣っていた。チームとしてアンヘルに頼り過ぎ、アンヘルもそれに答え過ぎたスタイルの限界でもあった。
ナンセンスを承知で言えば、フットボールに判定があったら、このゲームは、ユナイテッドの勝ちとなったであろう。また、個人の比較を判定すれば、アンヘルと明也のプレーは、アンヘルの方が決定機を作った回数は明らかに多い。それはスタッツに表れている。守備に追われた明也は、得点シーンでしか決定機に関与していない。ゴール数はアンヘルの3点に対して明也は1点だ。アンヘルと明也の戦いもアンヘルに軍配が上がったはず。だが、ゲーム後の2人を比べたら、勝利したアーセナルの明也に対して敗北に終わったアンヘルという姿は明らかだった。
静まり返っていたオールドトラフォードが、アンヘルを讃え、アーセナルに負けなかったことに感謝し始めた。だが、周りが何を言ってもアンヘルの落ち込みはどうにもならなかった。タイムアップ直後からピッチに大の字になって空を見ていたアンヘルは、スタンドのサポーターがいなくなるまで動かなかった。冬のマンチェスターは極寒だ。だが、熱くなり過ぎたアンヘルを冷ますには丁度良かった。
このゲームは、アンヘルが超えなければならないものを浮き彫りにした。だが、それは、アンヘルも気づいていたことだった。アーセナルはチームとしてユナイテッドに優る。明也は、チームの中で最高に輝き、チームの機動性を限界まで超えて高めていく。フットボールを始めた頃からずっと、たった1人でゲームを決めて来たアンヘルは、チームプレーをする必要が無かった。個の比較では明也に負けないと自負するアンヘルが劣っているもの「チームを機能させる能力」それは明らかだった。
90分間大歓声が絶え間なく続いたアンヘルコール。「Angel through」と言うアーセナルを震撼させたプレーまで登場したBattle of オールドトラフォード、ユナイテッドは追加時間のたった3分間で奈落に落とされた。
かつて、03-04シーズン、史上初めてプレミアリーグ無敗優勝「インヴィンシブルズ」の誕生は、ユナイテッドが深く関与していた。半世紀以上たった今、U−17のカテゴリーながら、ユナイテッドはインヴィンシブルズの再来を阻止することができなかった。
このゲームの結果によって、75-76シーズン、イングリッシュ・フットボールリーグU−17は、年明けからアーセナルの独壇場になっていった。優勝決定まで無敵と言える快進撃を続けていく。
(続く)