16-17チャンピオンズリーグ、セミファイナルに進出した4チームは、アーセナル、バイエルン・ミュンヘン、マンチェスターシティ、レアル・マドリーとなった。皆ヨーロッパのビッグクラブで、ヨーロッパのタイトルを複数回獲得している。この4チームならば、どのチームがファイナルに進んでもおかしくないだろう。其々のチームがこのタイトルを目指してきた。
シーズン当初は、直近3シーズンを連覇したマドリーの4連覇が本命視されていた。ところが、アーセナルに現れた16歳の少年によって、マドリーは粉々にされた。そして、既に過去のチームになったと言う扱いを受けてしまった。それでも、マドリーは王者マドリーだ。国内リーグで躓きを見せながらも、結局は余裕で首位をキープしている。国内1強リーグと言われようとマドリーが持っている王者のメンタルは、別格だ。
バイエルン・ミュンヘンというドイツの絶対王者は、チャンピオンズリーグの舞台では、長くマドリーとユベントスそしてシティの後塵を拝してきた。シルバーコレクターと言う不名誉とも言える名を受けたバイエルン。このバイエルンが今シーズンのチャンピオンズリーグに賭ける意気込みは何大抵ではない。国内タイトルを慢心が出ない程度で独走し、チャンピオンズリーグに注力出来る状況を作り出している。バイエルンはドイツ国内のライバルチームから有力選手を獲得する移籍戦術を行なってきた。これは自チームを強化し、ライバルチームの戦力を低下させる補強戦術として悪評高いものだ。だが、バイエルンは、移籍金や、契約解除金等の設定額満額を支払っている。駆け引きはあるだろうが、ディスカウント交渉や裏取引の様なものは皆無だ。市場に出された表示価格通りの金額を一括支払いしている。「市場に出ている選手を正価で購入して何処に問題があるんだ」それがバイエルンの言い分である。というものの、明らかに露骨な自チーム強化であり、世の中の評判は悪い。そんなバイエルンがチャンピオンズリーグを本気で狙っている。
マンチェスターシティ。現代フットボールにおいて最もポゼッション型のスタイルを持つチームだ。プレミアリーグではチェルシーを交わして2位に上がって、首位アーセナルを虎視眈々と伺っている。抽選にも恵まれて順当にセミファイナルまで上がってきた。クォーターファイナルのPSG戦は、パルク・デ・プランスでベタな打ち合いを演じて3−4と守備に不安な面を見せたが、シティ・オブ・マンチェスターでは4−0と圧勝した。60年前ドイツ経由でやってきたトータルフットボールの伝道師ペップ・グアルディオラが作ったフットボールスタイルは、今も生きている。元祖アヤックスよりも、アヤックスらしく、本家バルセロナよりもバルセロナらしい。今期のプレミアは、2位になっているが、アーセナルとは1勝1敗と星を分けている。ただマンチェスターシティの1勝は矢野明也デビュー前に勝ったものだ。矢野明也が入った後は完敗している。マンチェスターシティは、美しく勝つ意識が強くなると華々しく負けることがある。美しさと脆さが共存するスタイル故の結果である。
アーセナルを取り囲むチャンピオンズリーグセミファイナル進出チームには、当然だがこのタイトルを他チームに譲る気はないだろう。アーセナルがどんなに強かろうと、レアル・マドリーが復活していようとベストな状態でゲームに臨むはずだ。自らがNo.1だというプライドを持っているからだ。
今シーズンのファイナルはエンパイアスタジアムオブウェンブリー。フットボールの聖地、ウェンブリースタジアムは、ハイベリーから然程遠くない。アーセナルにとっては、ホームと言っても良いくらいだ。だが、ファイナルに進むには、セミファイナルを勝たなければならない。
チャンピオンズリーグはいつの時代も抽選の綾がある。強豪チームが偏る組合せになる方が普通と言える。マドリーは過去から抽選に恵まれれたと批判されることもある。そうでもなければ、20回以上もこのタイトルに縁はないだろう。チャンピオンズリーグというトーナメント戦は、真のリーグ戦とは違った趣を持つからだ。セミファイナルの抽選は世界が注目する中で厳粛そうに行われた。
最初にカードを引いたのは、レアル・マドリー、B−1が出た。次はアーセナルの番だった。カードは、A−1。マドリーとの再選はなかった。次はマンチェスターシティがカードを引く。A−2が示された。プレミア勢同士のカードとなった。最後にカードを引いたのはバイエルンだったが、既にどこと当たるかわかっている。B-2のカードだった。
76-77UEFAチャンピオンズリーグ、セミファイナルは、レアル・マドリー VS FCバイエルン、アーセナルFC VS マンチェスターシティとなった。
こうして76-77フットボールシーズンはシーズン終盤を迎え、各国のリーグ戦とカップ戦、ヨーロッパのカップ戦がクライマックスを迎えた。明也はプロデビューして半年が過ぎたところだ。デビューが決まってから、祖父の入院でメンタルをおかしくしたのが遥か昔のことの様に思える。アンヘルのこと、マドリーのロランドやフランチェスタのこと、リバラのこと、明也が戦ったビッグネーム達は、明也を際立たせるための存在だった。だがこの時点では、グーナーや九里ケ浜の人達がどれ程矢野明也を褒めたたえても、明也はまだ何もタイトルを手にしていない。デビューシーズンだと言ってもプロの選手として、クラブにタイトルをもたらすことは避けて通れないこと。過去に例が無いほどのプレーを見せ続けても無冠に終わったら評価は、天と地ほどの差になる。
チャンピオンズリーグとプレミアチャンピオンのタイトルは目の前にある。しかし、明也は、タイトルに執着する様子は見せない。それが、周囲を不安にさせた。
矢野明也は、いつも遠くを見ているようだった。
遥か地平線の彼方を見ているようだった。
(続く)