榊野、タ士丸、斎長卓司、斎長行人。遅れて来た4人が加わった九里が浜FCのセカンドチームの練習はよりゲーム形式が増えていた。来た早々にもかかわらずこの4人は、半年のブランクを感じさせない。普通に練習メニューをこなしていた。
榊野は練習の中でもいつもイジられていた。下の年代である堀内や斎長2人、神宮寺も榊野にちょっかいを出していた。技術はある、でも出し惜しみの様に見えてしまう。だからイジられる。それでも榊野は楽しそうにやっている。こんな榊野だから重いムードを一瞬で変えてしまう。プレーも瞬間芸、一瞬芸が基本だが、流れを変えてしまう程の力があった。ドリブルは普通、トラップも普通、シュートも普通、でも見えているところがほかの選手とは違っている。そんな榊野だからこのチームの中で生きるプレー、人を生かし、自分が生きるプレーができた。一瞬芸ではあったが。
タ士丸は練習でもゲームでも真面目だ。技術はトップレベルにある。ドリブルもシュートも最高レベル。エラシコやルーレット、バイシクルなど何でもできる。身体能力は剛の中林に比べればひ弱に見えるが、柔らかい動きとスペースに抜け出すスピードは中林を超えている。だが、真面目すぎる性格が、相手に怖さを感じさせない。殻を破れば誰も到達できないレベルに到達するプレーヤーだ。
斎長卓志と斎長行人は、双子の兄弟だ。この2人がダブルボランチに入ると対戦する相手は、必ず戸惑う。抜いた相手が、また現れる。それは錯覚と分かっていても相手のプレーを鈍らせる。ビジュアル的なトリックが、注目される二人であるが、この2人は、西塚や阿部の持つ技術を受け継ぐプレーヤーと言われるが、この2人にはないディフェンス力を持っている。ファンタジスタばかりの未来の子供達の中でこの2人は、チームに違った味を出せる可能性を持っている。
未来から遅れて来た4人が加わった九里が浜FCは、練習も一層熱が入るようになった。競争がより激しくなった。18人になったメンバー、ゲームに出られるのは、交代枠3名を含めても14人。4人はベンチになる。チーム内での競争は、個の質を高めるきっかけになった。個の質が上がらなければチームの質は上がらない。質を上げるには。量をこなさなければならない。質の高い量がなければレベルは上がらない。
九里が浜FCは全く無名のダークホースで臨んだ地域のU-15選手権を優勝したが、次の全国選手権予選は、優勝候補として臨むことになる。ベスト16が再集結するトーナメントはきっと激しくマークされるだろう。八幡台FC、楽園台FC、習知野FCといった強豪チームは、打倒九里が浜で来るはずだ。未来の子供達は、フットボールを楽しむことがすべてであって、大会の勝ち負けは楽しむことで付いてくるくらいにしか思っていない。それよりもこのチーム内の競争に勝つことが最優先だった。
遅れて来た4人も2週間が過ぎ、この時代の生活に慣れはじめた3月15日に全国選手権予選の組み合わせ抽選が行われた。
九里が浜FCの対戦相手は、東葛城FC、通称東葛FCとなった。無名のチームだった。U-15選手権では、ベスト16で習知野FCにPK合戦で負けている。4回戦まで3-2、4-3、5-3、4-3と全て逆転勝ちで上がっていた。
4回戦までの派手な勝ち方は、無気味だ。
全国選手権は、3月26日にラウンド16が行われ、毎週ゲーム、ファイナルまで3週間で決着するノックアウトラウンドとなる。
(全国選手権予選は次週へ続く)