2-2の同点になったゲームは、突然膠着状態になった。追い付いた九里が浜は、勢い付くどころか慎重になってしまった。チャンピオンを守るという意識になってしまったかわからない。逆に失うものが少ない方の市山は、膠着状態を楽しんでいる。U-15県チャンピオンは、九里が浜の方で市山はチャレンジャーとして臨んでいる。結果を恐れていない。相手は、名前負けする源でも習知野でも八幡台でもない。異次元だとか、未来だとか言われるチームだが、所詮は俄か成長したのが九里が浜だと思っている。チャンスは必ず来ると。
ゲームは、ブロックを組んだ市山の陣形に九里が浜が、リスクを恐れてディフェンス間でパス回しする時間が続いていく。90分が近づいて来る。同点になってから、両軍共にシュートを打っていない。初夏の気候は、気温の上昇を呼び、15歳になろうとする少年達の体力を奪っていく。粘る市山、攻めあぐねる九里が浜の構図が出来上がった。
そして、間もなくタイムアップを告げる笛の音がピッチに響いた。
延長戦になってしまった。そう思ったのは、九里が浜の方だろう。市山は戦闘意欲を失っていない。チャンピオンを食ってやろうという意欲が窺える。ボールを支配するのは、九里が浜だが、ゲームをコントロールするのは市山になっていた。
コイントスが行われ、九里が浜のキックオフで延長前半が開始される。
延長戦の立ち上がりも、九里が浜は慎重な動きのままだ。気温の上昇は、ボールを保持する未来の子供達から体力を奪っていく。延長前半の10分が過ぎる頃には、九里が浜のパススピードは半減していた。
タ士丸の動きが落ちて来た。ボールを失わず繋ぐことが精一杯になってゴールを向けない。脚が攣りそうになっているのが見て取れた。タ士丸は1年下の年代、まだ13歳だった。スペースを作る動きをし続けた代償を此処で払うことになった。
九里が浜は交代が必要になり、最後の交代カードは、堀内が呼ばれた。タ士丸のポジションにそのまま堀内が入る。堀内はやっと出番が回って、生き生きしていた。市山は交代カードを切ってない。同じメンバーで100分以上戦っている。体力的にU-18位はあるのだろう。
堀内が入って少し大胆さが増した九里が浜だったが、大胆さは、時にリスクを伴うものだ。九里が浜の選手達、未来の子供達が同じエネルギーバランスだったらリスクを制御できただろうが、今はバランスが崩れている。ピッチ中央でボールを拾い、繋ぎ続けた諸宮の動きが重い。本人は走っているつもりだろうが、歩いている様にしか見えない。延長前半の終わり頃には、市山のカウンターを受けだした。ゲームの流れは市山に移っていた。
延長前半終了の笛が鳴る。
スコアは動かない。PK合戦の匂いもしてきた。両チーム共に消耗している。九里が浜の方がより激しく消耗している。延長戦のインターバルはほとんどない。この時代は、水すら飲ませない時代だった。そんな時代の常識が、未来の子供達の最大の敵だったかも知れない。
延長後半は、市山のキックオフで開始された。市山は、一気に攻めてきた。キックオフラッシュだった。九里が浜の選手達は少し出遅れてしまった。後手を踏んで遅れをとってしまう。東城と諸宮の中央が簡単に割られてしまう。サイドも数的不利になった九里が浜は、唐草と海東そして一清だけになる。右サイド(九里が浜の左サイド)からカットインされて唐草が引き出されて、中は海東と一清のみ、2対4の状況を作られ、中のケアをした一清のニアが破られる。延長後半開始1分、通算106分に均衡が破られた。残り時間は少ない。危機に陥った未来の子供達。未来の子供達の表情が重い。此処までか?
東城の頭に中林の顔が浮かんだ。中林が辛い顔をしている。「吉哉、もう終わりか?」東城は、中林の言葉に我に帰った。
最後の15分は、次回に続く。
次回第2部完結