九里が浜のキックオフで後半が始まる。東城とタ士丸のタッチ後、諸宮に戻ったボールは、左サイドに開く市井に飛んで動きを止めた。市井のトラップは後ろ足トラップとでも言う様な遊び心のあるものだった。
市井はボールを持ちディフェンダーと向き合って動かない。ディフェンダーが詰めてくる。市井はボールを停めて相手を誘っている。他のディフェンダーも市井に寄せてパスコースを塞いで来た。それでも市井は動かない。西塚が、市井の脇、タッチライン沿いをフリーランで上がる。ディフェンダーの注意が西塚に向いた時、市井は急速発進してディフェンダーの間を割る様に抜け出す。一瞬の事で何が起きたか戸惑ったのは、市山ディフェンダーだった。市山の戸惑いなど何処吹く風で市井は中央に向かって斜めに進む。市井にディフェンダーが追いすがる。前に新たなディフェンダーが詰めて市井の進路を塞ぐ。
市井は左サイドのディフェンス裏に抜け出そうとする西塚に目線をくれた直後、右足でボールに乗り身体を回転させて今度は左足でボールを引き出してディフェンスの間を抜け出した。ルーレットが決まる。久し振りに見る市井の瞬間芸だ。市井はペナに侵入してキーパーと1対1になるとファーポストを狙った巻き込みシュートを打つ様なキックフェイクを入れ、右足でボールを引きずる様に動かしキーパーの右を縦に抜ける。牛のシッポが決まって無人のゴールにボールを流し込んだ。はずだった。流し込んだボールが緩すぎた。戻ったディフェンダーがボールをかき出す様にクリアしていた。頭を抱える市井。瞬間芸の連続で5人抜き、無人のゴールにシュートした市井。決まらないのが市井らしい。市井の瞬間芸は、東城の技を超える切れ味と派手な輝きを放つが、変なオチがつく。
市井のプレーで市山FCは警戒を強め自陣に構えカウンター狙いに変わった。4-2-3-1の並びだった市山FCは、後半から、ワントップとトップ下を縦関係で前に置き、残り8人が2段のラインデフェンスになっている。4-4-1-1が実際の並びだ。九里が浜のドリブル突破とショートパス攻撃を密集で防ごうという狙いが感じ取れた。諸宮には市山トップ下がほぼマンマークで付いて、展開をさせない。九里が浜は、3ディフェンス間では楽にボールが持てるが、先に進めない。一列目を突破しても2列目で密集になってクリアされる。
1点が遠くなって来た後半15分、九里が浜は選手交代、右の細野に替えて榊野、宇能に替えて斎長卓史。両サイドトップに瞬間芸の2人、斎長は右サイドで攻撃の起点となる狙いを持っていた。2-1-4-3、かなり前掛かりになった。リスクを伴うものだが、あと2点取らなければ勝てない九里が浜の選択だった。
市山サイドは、両チーム選手で密集の度合いを増した。逆に九里が浜陣は一清1人、広大なスペースになっている。市山陣、センターラインを超えた所で諸宮と海東、唐草はトライアングルを作ってボールを回す。ワンタッチからツータッチでボールを繋ぐ市山センターフォワードとトップ下をトライアングルの中に入れた3対2をやっている。トライアングルは、サイドから中央、中央からサイドへと回転する様に動いている。
諸宮の頂点が回転して自陣に入った時、トライアングルが四角形に変わった。東城が諸宮の対角に入ってボールが回る。東城に付いていたマーカーもいつの間にかスクエアに呑み込まれていた。4対3が出来上がった。四角形は不規則な回転をしながらピッチを動いている。西塚と阿部が入って来た。五角形になった。東城が中に入っていたからだ。フリーマンの役をやっている。五角形の中で東城が躍動する。市山選手5人に囲まれてボール回しの要を演じている。6対6になっていた。五角形が回転して動く。五角形の外にいる選手達はボールの位置を確認しながらポジションを修正している。
榊野がマーカーを連れて入って来た。諸宮が榊野に強いボールを送る。榊野のトラップが大きくなってルーズボールになってしまう。市山選手がボールに殺到する。市山選手がボールを押さえクリアするつもりだった。だが、クリアする角度に海東が詰めてボールをカットして直ぐ東城に繋いでしまう。九里が浜のボール回しで市山陣は2段ブロックが崩れていた。斎長、タ士丸、市井へのマークはズレて緩くなっていた。
東城は、ボールをチップキックで浮かせてタ士丸に送る。タ士丸は胸で止め、直ぐ前のスペースにボールを置いた。東城が五角形から飛び出していた。東城はボールを持つと寄せて来た2人のディフェンダーに自分から突っかけるように動き、右ディフェンダーの股にボールを通す。斎長が抜け出てボールを受けると中央にシュート性のクロス。仕上げは、市井だった。キーパーの脇を抜けたクロスはフリーの市井に届き、流し込むだけのサイドキックでボールがネットを揺らした。
後半25分、やっと追い付いた九里が浜。
しかし、振り出しに戻ったファイナルは、市山FCの粘りで長い戦いになって行く。
(続く)
