CLラウンド16が始まった。今年の組合せも偏っていると感じるのは、アンチマドリだからか。バルセロナVSパリをラウンド16で見るのはモッタイナイと思った。
バルセロナの前でパリは何も出来ないだろうというのが、戦前の正直な予想だった。ところがだ。何も出来なかったのはバルセロナの方だった。
数年前まで、バルセロナは、エクセレントだった。シャビとイニエスタに反応して怪物化していったメッシは異次元のフットボーラーになっていた。しかし、怪物化したメッシを手に入れたバルセロナは、メッシ依存が進行し、シャビというボールポゼッション装置も故障離脱するようになってチームとしての機能性を失っていった。そこで、ネイマールという麻薬を投与した。勝利という結果を取り戻したために失われた機能性は影に隠れてしまった。そして次にスアレスという麻薬のような劇薬を投与した。史上最強のスリートップという謳い文句のMSNは核分裂のような破壊力でチームに勝利をもたらした。だが、その時既にチームは自覚なき末期症状に陥っていた。自覚させ、修正を促す指摘したであろうクライフはもういなかった。
MSNという最終兵器は、チームの機能低下を隠し続けた。昨シーズンは、まだ目立つことがなかった。しかし、今シーズンになって日増しに症状は悪化した。リーガの下位チームにも勝点を奪われ、マドリに対する劣勢は明らかだった。マドリが上がった訳ではなく、バルセロナが機能不全を起こしていたのだ。
そして、迎えたCLラウンド16のファーストレグ。対戦相手は、パリというお金の力でタイトル購入を狙うチーム。マドリやシティ、チェルシーといった金満クラブの1つだ。マドリは、生まれながらの金満ビッグクラブなので筋金入りだが、チェルシーは5年以上かけて金満新興クラブからビッグクラブの仲間入りをした。シティもあと少しでそうなりそうだ。パリは、一気にのし上がって来たが去年までは、バルセロナやマドリには名前負けして、腰の引けた消極的なプレーで終わっていた。今年パリは、監督にウナイ・エメリを招き、チームに規律を注入していた。
パルク・デ・プランスは、パリの狩場となった。バルセロナは怪我明けのブスケスとイニエスタを先発させた。そして、普段使わない、ブスケスとアンドレ・ゴメスのダブルアンカーを採用した。バルセロナの中盤は、マチューディ、ベラッティ、ラビオを配したパリの中盤に完全に制圧され、ボールを狩られ続けた。怪我明けのブスケスとイニエスタは、ボールロストを繰り返した。エクセレントなバルセロナの心臓部だった2人とはもはや別人だった。痺れを切らし、下がってボールを受けるメッシがボールロストする。最近目立ち始めた悪いバルセロナの形だ。
パリSGの前線はベストフォームに戻って来たアンヘル・ディマリアが躍動した。冬に加入したドラクスラーがバルセロナDFに恐怖を与えた。代表ではスアレスの影になりがちなカバーニがストライカーの真骨頂ゴラッソでバルセロナに留めを刺しただけでなく、ゲームを通してスーパーなフットボーラーだった。泣き虫キャプテン不在で不安もあったパリのDF陣は、逆に彼がいなくてよかったのかもしれない。
人垣をつくって、カウンターで仕留めるといったリアクションの方法をとらなかった。アトレティコのように走り回り、ボールの動きを予測したプレーをゲームが決するまでやり切った。真っ向勝負でバルセロナを圧倒した。
こんなバルセロナを見るのは、シャビが登場する前の頃まで遡らなければならない。バルセロナは、シャビが幕を開けたボールポゼッションの技術によって勝利し、タイトルを積み上げた。メッシという怪物化した異次元のプレーヤーも生み出した。勝利に酔い勝利を維持する為に特定の個に依存し過ぎたバルセロナは、技術という武器を失ってしまった。どんな強力なプレスも予測も走力も上回った技術は、過去のものになってしまった。エクセレントな技術があって成立するクライフイズムであり、バルサイズムは、技術を失って激しく崩れ落ちた。
バルセロナ時代の終わりの始まり。それは、皮肉にもメッシの怪物化よって始まり、シャビの離脱によって決定的になった。
空間を支配し、時間まで支配する技術を持っていたバルセロナをもう見ることは出来ない。