ボールが友達だった。
毎日ボールを蹴っていた。晴れの日も雨の日も暑い日も寒い日も。家の中でも蹴っていた。家の中でドリブルもした。リフティングもした。テレビを見るときも、本を読むときも、食事をするときも、トイレに行ってもボールに触っていた。寝るときもボールを触っていた。サッカーが上手くなりたくて。ボールと友達になりたくて。今もボールが傍にいる。いつもボールが傍にいた。ボールと友達になりたくて。
おまけ:伝説のフットボーラー
NMT164
NMT164は伝説のドリブラーAKR14と同じ年代の選手だった。NMT164は運動神経が飛び抜けて高かった。ドリブルもパスもヘディングもトラップもそしてシュートも群を抜いていた。でもスタミナに課題があった。1試合90分もたなかった。NMT164はいつも電車で練習に通っていたから、家が駅に近かったから、日常がスタミナをつける環境でなかった、何よりNMT164はスタミナがないことを気にもしてなかった。自転車で片道12Km通いスタミナが自然とついたAKR14とはそこが違っていた。スタミナがあればチーム史上最高の選手になれる素質があった。伝説のアタッカー、伝説のチャンスメーカーとなった筈。芸術的なプレーが出来た、でも1試合90分もたなかった。
NMT164はAKR14とよく練習後「飲んで」帰った。好きなツマミはたこ焼きだった。行きつけのお店、「デリシャス」の前には、いつもAKR14の自転車が停まっていた。カウンターには楽しそうに話すNMT164とAKR14がいた。いまでも目に浮かぶ懐かしい光景だ。
今、NMT164は「呑み」が大好きだ。サッカーはスタミナに課題があったが、呑みは疲れ知らず、底無しのスタミナだ。1日5ゲームフル出場、全て延長PKになっても平気、普通にやれる。そんなスタミナを呑みでは発揮する。伝説のチーム時代にそのスタミナが欲しかった。史上最高の才能が瞬間芸で終わることは無かったはずだ。でもNMT164は気にしてなかった。サッカーは瞬間の煌きを競う競技でいいと思っていたから。20分ハーフならよかった。
NMT164は今も電車で通っている。家は駅から歩いて30秒、相変わらず近い。電車の運行状況を調べるにはスマホやメディアが不要だ。なぜなら、駅の案内放送が直接聞こえるから。
50歳を過ぎたNMT164。見た目は35歳位で、現役選手と一緒にいても違和感がないほど若く見える。そんなNMT164がジョギングをしていた。体力を維持するためのようだ。「人生は体力、そして持久力が大事だ」そんな事を言っていた。40年経って見つけた答えかもしれない。「いまごろ」と思うが、呑みのスタミナはどうつけたのか。史上最高の選手になることなんて考えたこともなく、望みもしなかっただけ。AKR14と飲むことが好きだったNMT164。呑みが競技だったら、Ballon d'or級だ。天賦の才能はメッシに双璧するNMT164。マラドーナは5人抜き、NMT164は呑み屋5軒抜き。伝説のドリンカーだ。