KLMのエアチケットがなく、ロッテルダムからサントスまでの船旅は、気の短い自分にはカテナチオに劣らない退屈なものだった。デニスの我慢強さはさすがだ。
オランイェが決勝Tを戦ったフォルタレザの暑さは異常だ。この気候ではヨーロッパの代表が本来の力を出すのは無理だ。ファンハールの戦術はアンチフットボール的で好きになれないが、南米の気候、南米の空気を理解したら分かる気がする。それほど南米の空気はヨーロッパと異なるものだ。アジアの代表が1勝も出来ずに敗退したのも南米の空気が原因だろう。アジアの代表は、どんな空気や環境でも変わらないスキルを身に着けることが必要だ。その国らしいサッカーを求めても勝てない代表を見るのは辛いものだ。しかし、その国のスタイルを捨てて勝ちを求めることも結局は、記録に残っても記憶には残らない。40年前のトータルフットボールは記憶に残り、歴史に残ったが、8年前のアズーリは記憶に残ったのか分からない。サッカーはいつも進化するとは限らない。停滞することも必ずあるものだ。スペインのポゼッションスタイルが時代に遅れを取ったように言われるが、これも本当かどうか疑わしい。スペインの敗退は、心と体の準備が不十分だったことが本当の原因だ。しかもコーチングスタッフと選手は、南米の空気をどこまで予測し、解決策を持っていたか疑問だ。ヨーロッパチャンピオンと世界チャンピオンを勝ち取り、世界にサッカーの楽しさを伝えたスペインも準備を怠れば、忽ち停滞し、時代遅れのサッカーに見えてしまう。でもスペインはスタイルを変えない。美しいスタイルでチャンピオンを勝ち取ったのに醜いサッカーに変えるはずがない。次のワールドカップには美しいスペインが見られるはずだ。
攻撃サッカー、トータルフットボールを捨てたオランイェは、勝ち続けるだろうか?昨日まではそう思えたが、今日のメキシコにはやられる寸前だった。個の力と運のよさで切り抜けたが、次もあるとは限らない。アズーリのメンタルをオランイェが持つとは思えない。コスタリカはアズーリを破っている。スペイン的な美しさを求めたアズーリは、アズーリのしたたかさを失った。世界から崇拝されたトータルフットボールを捨て、勝ち続けようとするオランイェは、その信者を失うだろう。そして神の子によって罰を受けるかもしれない。それもオランイェに与えられた試練と思い次に向かうだけだ。オランイェのサッカーは続く。
セレソンは組織的な戦術と無関係なチームだった。個々が楽しい技と驚く技を出し合いその化学反応が戦術になっていた。しかし、今回のセレソンは、本当にセレソンなのか。真面目なまっすぐなチームでイングランドのように見えるし、リアクション性はかつてのウルグアイ、かつてのコロンビアのようだ。セレソンではない。これではメキシコに苦戦する、チリにも苦戦する。そしてドイツにはやられるかもしれない。他の国が恐れるセレソンではないから。ドイツは、セレソンに勝ったことがないが今回のセレソンなら勝つかもしれない。ドイツはファンタスティックに弱い。ネイマールがつぶされたら危険だ。但し、ドイツの前に絶好調コロンビアと当る。南米予選3位のチリの後は南米予選2位のコロンビアだ。南米1位の待つファイナルは遠い。楽しいサッカーをするセレソンに戻って欲しい。自国開催がそれを出来なくしているのか?でも82年以来本当のセレソンはないかもしれない。楽しくなければセレソンじゃないが、勝たないのもセレソンじゃない。セレソンの道はいつも険しい。サッカーの神様の試練だ。でもサッカーの神様はいつもセレソンが好きだ。セレソンがマラカナンにいないことは許されない。サッカーの神様はマラカナンに降りるから。