全国選手権予選はセミファイナルを迎えた。
九里が浜FCのいるブロックは、九里が浜FC対八葉FCという順当なカードとなったが、もう一つのブロックは市山FCという無名に近いチームが習知野FCと八幡台FCを撃破して進み、松木戸FCというこれも無名のチームが伯東FC、楽園台FCを大差で破り勝ち進んだ。
ノックアウト方式のトーナメントは、順当勝ちと番狂わせの境界線はとても微妙なものだ。強いと言われたチームが敗退することをよく目にする。だから、強い方が勝つのではなく、勝った方が強いという評価になってしまう。習知野FCも八幡台FCもおそらく楽園台FCも打倒九里が浜FCで大会に臨んでいただろう。打倒九里が浜どころか全国選手権出場も泡と化した。フットボールの神様の気まぐれなのか、そのチームにどこか問題があったのかわからない。しかし、勝ち進んだチームが必ず何かを持っていたことと考えるのが自然であろう。
セミファイナルのカードは、九里が浜FC対八葉FC、市山FC対松木戸FCになった。半年前このカードを予想した人は誰もいない。八葉FCだけは名の通ったチームだがそれ以外は皆無名だった。
九里が浜FC、未来の子供達は、狂った歯車が元に戻り、日々のトレーニングもうまく回り始めていた。八葉FCは、堅守速攻を身上とする典型的なリアクションフットボールのチーム。この時代に来て何度もこのスタイルのチームと戦ってきた未来の子供達は、十分対応できるようになっていた。ノックアウト方式の怖さもまだ不完全ではあるが理解が進んでいる。今怖いのはけが人による欠員だけだ。チームのセンターフォワードである中林の膝が危険な状態にあるのは皆が感じていることだった。タ士丸という新戦力が加わったと言えども中林が抜けることは戦力ダウンは明らかだった。
中林は、夏までこの時代にいられることを願っていた。だが、未来への帰還は突然だった。八葉とのセミファイナルの3日前の練習で中林の膝が悲鳴を上げるように音を立てて壊れてしまった。この時代にいては中林の選手生命が終わってしまう。最後まで残ると言ってきかない中林を未来の子供達は説得して中林に40年後の世界に帰らせた。
選手層が厚くなったのも束の間、九里が浜FCは№9が不在になった。
(続く)