全国選手権予選の壮行会を兼ねて千代南FCを招いたトレーニングマッチが行われた。千代南FCは市の大会チャンピオンで、九里が浜FCトップチームにとって悪夢を思い出させるチームだ。
毎年9月に行われる市の大会は、その開始された年から昨シーズンまでの10年間、九里が浜FCが連覇していた。開催も結果も地元新聞に載らない小さな大会でタイトルと言えるのか微妙だが、初めてそのタイトルが移動した。九里が浜FCトップチームは、決勝まで堂々と勝ち上がり、悠々優勝すると見られていた。が、結果は違っていた。
決勝戦、リアクション系チーム同士の戦いは、我慢比べだった。チャンピオンとして臨んだ九里が浜FCは、チャンピオンという肩書きが焦りを呼び、次第にそれが重荷になった。先取点を求めて前がかりになっていった。そして、前半終了近くにカウンターをくらって、失点する。だが、この日は悪い癖の仲間割れも出ず、高い意思?で逆転を狙ったゲームは後半に進んだ。
開始早々から矢野と枝本が躍動し攻め続ける九里が浜FC。2人の攻撃だけで千代南ディフェンス組織を切り裂いたところはリアクション系のチームと思えない攻撃だった。得点さえ入れば楽勝のゲームだった。体を張り続けた千代南FCディフェンスを褒めるべきかもしれない。フットボールの流れは九里が浜FCに無慈悲で容赦ないものだった。後半35分にゲームを決定づける追加点がゴールネットを揺らした。この時点で九里が浜FCトップチームは戦意喪失。千代南俊足FW吉谷一樹にとどめの3点目を決められタイムアップ。九里が浜FCの連覇が止まってしまった。
市のチャンピオン千代南FCを呼んで行われた九里が浜FCセカンドチームのトレーニングマッチ。県のチャンピオンに向かってくる千代南に失うものはない。トレーニングマッチだろうと激しくくるはずだ。
全国選手権予選を1週間後に控えた土曜日に九里が浜FCフットボールパーク?に千代南FCがやって来た。トップチームのメンバーでゲーム観戦したのは、矢野と枝本だけで、他のメンバーは誰もいなかった。
45分ハーフで行われるトレーニングマッチ。千代南は俊足FW吉谷一樹をワントップにした4-5-1のフォーメーション。九里が浜FCは4-3-3の並び。東城はベンチスタートだった。細野、中林、市井のスリートップに西塚、阿部のオフェンシブMFに置き、諸宮をアンカーに置いた中盤。ディフェンスは左右両サイドに斎長兄弟、卓士と行人、中央に海東と唐草を置いた。キーパーは一清。4-3-3という三列表記はFW-MF-DFを表した表記だが実際のポジションは2-3-2-3という四列表記の方が実態を表している。最終ラインから前線まで30mの間隔に収まっている。DFの背後は広い。吉谷一樹の走り抜けるスペースは広い。そう見えていた。
九里が浜FCのキックオフでゲーム開始。
中林と阿部のタッチでボールが動き始める。九里が浜FCは、慎重なボール回しで千代南の出方を見ている。吉谷1人がボールに向かって寄せて来る。中盤の3人が吉谷の動きの逆を取るようにボールを動かしている。千代南選手が西塚と阿部に近づいてプレスの動きをする。ボールは動いている。九里が浜はフォーメーションの形が崩れていない。ボールはピッチから出ることなく、5分以上経過する。阿部がボールを足裏で左右に動かして吉谷を振り回すような動き。闘牛を見ているようなゲーム開始。ボールを持たない九里が浜の選手たちはサポートする動きとスペースに入り込む動きを見せている。阿部は吉谷と千代南MF2人を引き連れて右サイドにずれて行く。阿部はキックフェイントを入れ、縦に抜け出ようとした動きの後、ボールをヒールで落とす。斎長卓志に渡る。斎長はスピードの緩急があるドリブルでマーカーをかわすと中央の諸宮にグラウンダーで速いパスを送る。諸宮は空振りしたような動きをしながらスルー。西塚に繋がる。西塚はマーカーを一瞬でまた抜きすると次のマーカーをまた抜きパスを出す。ボールは中林のもとへ。中林はマーカーを背中でブロックしながらここでもスルー。フリーで待っていた阿部がキーパーの位置を確認しながらダイレクトでシュート。阿部で始まった攻撃を阿部がフィニッシュしてノータッチゴール。5分以上ボールを保持し続けた九里が浜FCの先制ゴールだった。
県チャンピオンに一泡吹かせるつもりでゲームに臨んでいた千代南FCは、この一撃で臆病なチームに変わってしまう。クリアのキック練習をするような逃げるばかりのプレーになる。途中からは、クリアすることすらできなくなっていく。この後、中林が2点、阿部が2点(ハットトリック)の計5点が入り前半終了。
後半は、諸宮のポジションに神宮寺、中林に変わってタ士丸、市井に変わって堀内、細野に変わって榊野が入る。東城は引き続きベンチ。後半は、気持ちの緩んだ九里が浜に対して千代南FCが意地を見せるかに見えたが、神宮寺がいい動きを見せ緩みがちな中盤を支えていた。榊野のダイビングヒールキックのシュートと、タ士丸と西塚がワンツーリターンの中央突破でタ士丸がキーパーをかわして打ったシュート、後半はこの2点のみ。7-0となりゲームも決まり。全国選手権予選に向けたトレーニングマッチとしては、やる意味があったか疑問符がつくゲームとなった。
東城が最後までピッチに立たなかったのは謎だ。本人が強く希望したのでずっとベンチに置いた。このゲームは、全国選手権予選出場チームの関係者が多数観戦に来ていたので東城を見られずがっかりしていた。だが、東城なしでも次元が違う九里が浜FCのフットボールに驚かされたようだ。
翌日、トップチームキャプテン鶴亀が千代南とのゲーム結果を聞きに来た。市井が真っ先に「なにもしないチームだったよ」「何しに来たのかわからなかった」「あれが市のチャンピオンとは驚いたよ」と答えていた。市井は正直な気持ちを直接的な言葉にする。鶴亀は全部を聞かず、ションボリ帰って行った。トップチームは完全に威厳を喪失した。
全国選手権の代表決定戦が始まろうとしていた。九里が浜FCは、U-15県チャンピオンとして臨む。一回戦の相手は、東葛城FC、通称東葛FCは曲者チームだった。
(続く)