レイソロスが王者として君臨していた九里ケ浜リーグ、矢野明也の登場以来、王権はホワイトボーイズに移っていた。今シーズンの初めから、矢野の活躍により、8チームリーグは、ホワイトボーイズが全勝優勝するのが当然の展開だった。元々、レイソロス以外の6つのクラブチームは、リーグタイトルを目指すようなチームではなかったが、ホワイトボーイズ戦での点の取られ方は、尋常ではなかった。ホワイトボーイズが奪った得点は、ホーム、アウェーなど全く関係なく、二桁得点どころか、どんなスポーツの得点なのかと疑う様なものだった。特に矢野が挙げた得点は、10点以上が6回、ダブルハットトリック以上が5回という、レイソロス戦以外の得点だけで100点を超えた。レイソロスもこの6チームを相手にすると容赦なく得点を積み上げるが、これほどではない。それ程矢野明也の破壊力は異次元のものだった。
レイソロスを相手にしたホワイトボーイズは、アウェーで10点を取り、うち矢野が5得点を奪った。そしてライジングサンでのシーズン最終戦、矢野と根元のコンビネーションによる攻撃は、レイソロスを木っ端みじんにする。矢野がトリプルハットトリックを記録し、根元がハットトリックを決め、ホワイトボーイズは、宿敵レイソロスを相手に15対0という圧倒的な勝利を勝ち取った。14戦全勝得点は200点を超えるという記録ずくめのリーグ戦となった。
明也の祖父拓哉は、一人九里ケ浜に残った明也がホワイトボーイズの絶対的エースになっても、変わることなく毎日ライジングサンに姿を見せ、明也のプレーを眺めていた。最近では、最新のビデオカメラを持って明也のプレーを追い続けていた。拓哉の父、矢野晃が自身をカメラで追い続けたように。
矢野明也という九里ケ浜の天才は、その大きさゆえに、九里ケ浜の町に留めるには才能が大きくなりすぎて来た。ジュニア年代最後の年を迎えた矢野明也はネット上にプレーの動画が出され、天才少年として、国中に名前が出るようになった。メディアも注目を始めると、プロチームのスカウトが九里ケ浜詣でを繰り返していた。矢野を取り巻く雰囲気は、矢野個人ではどうする事もできない流れになっていた。それでも、当の矢野明也は、いつもと変わらず、家と学校とライジングサンを繋ぐ線から出ることは無かった。
矢野明也が、両親と離れ、祖父のもとに暮らしてから半年が過ぎ、明也がホワイトボーイズU-12チームに進級したとき、突然、両親が一時帰国した。
父直哉は、明也をロンドン連れていく決心をしての帰国だった。
明也のプレーは、動画レターが、祖父拓哉からロンドンに送られていた。直哉は、この動画をロンドンにあるフットボールクラブに持ち込み、明也を紹介していた。ロンドンのビッグクラブは、当初疑いのまなざしでビデオを見ていたが、ビデオの中の少年から計り知れない能力を感じていた。そして、本人が、ロンドンに来るのならテストを受けさせることを承諾したいたのだった。
また、明也のロンドン行きという嵐が、九里ケ浜の町を覆うことになるのだろうか。
(続く)