レイソロスの攻撃練習の相手となってしまったU−10の次は、U−11のゲームだ。ライジングサンに集まったサポーターは、ほとんどがこのゲームを見に来ていた。矢野明也が登場する。ホワイトボーイズのU−11は、昨年末のダービーで、矢野明也抜きでもレイソロスに圧勝している。この年代は、矢野を筆頭に素晴らしい素質の子供達が集まっていた。いわゆる当たり年と言われる年代だった。
このチームに入った矢野のポジションは、中盤センターだが、これは初めの内だけ。ホワイトボーイズのU−11にはキーパー以外、決まったポジションが無かった。フィールドセンターに居て、ボールを支配し、ゲームを支配する矢野明也。その前後左右には、矢野によって覚醒したテクニカルな選手達が矢野を囲むように控えていた。ただし、この選手は、矢野程でないが皆小柄だった。はるか昔からホワイトボーイズのジュニア選手は、体が小さい。レイソロスはフィジカル重視の大型選手が主力。だからジュニア年代に於いて、レイソロスは相手チームをパワーで圧倒する。技術を無視している訳ではないが、フィジカルパワーで勝てるから技術を身につける意識は薄れる。ホワイトボーイズはいつの時代も小さな子供たちだったので、体力で劣るところを技術とアイデアで補っている。そんな正反対のチームが戦った典型的なゲームが、今回のU−11となった。
テクニカルとパワフル。そんなフットボールの戦い。均衡した力関係においては、我慢比べの様な焦らしあいの展開になる。矢野明也が居なかった冬のゲームは、レイソロスの「矢野が居なけりゃ負けないだろう」という意識によって、レイソロスは強烈な罰を与えられた。本来、スタイルは違えど、ホワイトボーイズとレイソロスのゲームは、最後まで1点を争うスリリングな展開になる。だが、ホワイトボーイズU−11VSレイソロスU−11のゲームは、そんな焦らしあいや1点を争う展開にはならず、分かりやすい点の取り合いになった。
キックオフ直後から、矢野明也を中心にドリブルとショートパスを使った攻撃でレイソロスを崩すホワイトボーイズ。常に2人のマークを引き連れプレーする矢野明也は、次元の違うボール技術でレイソロスディフェンスを人型の置物の様にしてしまう。矢野の5人抜きゴールでホワイトボーイズに先制点が生まれ、その直後には、矢野がホワイトボーイズに入団以来コンビを組み息の合うプレーヤー、根元和が技ありのドリブルを披露、連続の股抜きと空振りタックルをレイソロスディフェンスにお見舞いした。キーパーと1対1になったところで、ボールをノールックで横に出すと矢野が無人のゴールにボールを流し込んで2点目となった。
冬に起きた10対0のゲームが、皆の脳裏に蘇った。ホワイトボーイズはその後も主導権を取り、、ボールを支配する。矢野と根元が躍動してレイソロスはなす術無く3点目を献上する。ゲームは前半で決まったかのように見えた。しかし、ここから、フットボールは予測不能だという面が出始める。
キーパーまで戻されたバックパスをホワイトボーイズゴールキーパーは、右サイドの味方にフィードした。はずだった。フィードの瞬間、キーパー左からレイソロスフォワードが飛び込んでいた。フィードされたはずのボールは、このフォワードの膝を直撃してリフレクト、ホワイトボーイズ無人のゴールに飛び込んだ。油断や判断ミスという評価が下されるシーンかもしれない。一瞬の判断違いをゴールキーパーだけの責任にするのは酷である。何れにせよ、ホワイトボーイズU−11は対レイソロスU−11相手に初失点を記録する。