ダービー当日は、初夏の日差しが眩しい1日だった。この日も海から吹く風は、ニューライジングサンに潮の香り運んでいた。夕方5時のキックオフに拘らず、ニューライジングサンの周りは、午前中からサポーターが集まり始めていた。レイソロスサポーターが早く集まっている。今季地域リーグを独走するレイソロスは、アウェー戦、ホワイトボーイズに勝てば優勝が決まる。そして来季は、ナショナルリーグ3部に自動昇格することになる。レイソロスの選手もサポーターも、そんな歴史的ゲームをダービーで決めるという意欲に満ち溢れていた。
レイソロスのキックオフで始まったダービーは、レイソロスの闘志がホワイトボーイズを圧倒した。レイソロスのプレッシングは、ピッチのあらゆる場所でホワイトボーイズを追い詰めていた。ホワイトボーイズは、前半2失点、後半早々に3点目を献上する。ニューライジングサンのスタンドは、前半こそホワイトボーイズの声援に溢れていたが、レイソロスのひた向きに走り続ける姿を目にしたホワイトボーイズサポーターは、いつの間にかレイソロスの声援をするようになった。これでは、どちらがホームかわからない。ニューライジングサンに吹く東風が強まり、スタジアムの屋根が音を立てている。ニューライジングサンが、ブーイングをしているようだ。ニューライジングサンは、不甲斐ないホワイトボーイズのみならず、自チームを応援しないサポーターにもブーイングしているようだ。ゲーム終了間際に1点を返したホワイトボーイズだったが、そこでゲーム終了。
レイソロスのナショナルリーグ昇格が決まる。
レイソロスサポーター席には、「さよならホワイトボーイズ」の横断幕が掲げられる。新シーズンから公式戦のダービーがなくなる。長い間地域リーグの中位にいた両チームに今シーズンは大きな差がついてしまった。ホワイトボーイズは、今シーズンも20チーム中10位あたりをうろうろしている。
初めてホワイトボーイズのサポーター席でダービーを観戦した矢野は、微妙な感覚を持った。去年まで応援していたレイソロスの昇格はとてもうれしかったが、矢野がレイソロスを離れ、ホワイトボーイズに入団した年にホーム、ニューライジングサンでホワイトボーイズがどうしようもない悔しさを味わう場面に立ち会うことになった。矢野が7歳になる年のダービーは、レイソロスにとって忘れられない喜びであり、ホワイトボーイズにとっては、忘れたくても忘れられないものになった。
ダービーの翌日、ニューライジングサンは静けさを取り戻していた。今日も、海から吹く東の風を受け、潮の香りに包まれていた。ゲームの翌日は、全体練習は休みになる。でも、ホワイトボーイズの練習グランド、ライジングサンにボールを蹴る人影があった。矢野がたった一人でボールを蹴っていた。矢野は、今日も自転車でライジングサンに来ていた。リーグ優勝に沸くレイソロスのホームタウンに矢野のいる場所はなかった。この日から、矢野は練習のない日でもずっとライジングサンでボールを蹴るようになった。
U-7、U-8、U9、3年が過ぎ、矢野はU-10に上がっていた。体も少し大きくなり、1m20㎝を超えた。そしてこの年、リーグ戦のダービーが復活した。
(続く)