「みのり!本当にここでいいの?」
ジャージ姿の2人は、普段着の少年に繰り返して聞いた。
「合ってるね。ほら秀斗が来たよ」
普段着の少年が答えた。
遠くに自転車に乗った少年が見える。自転車の前カゴにボールが乗っている。4人には見覚えあるジャージ姿だった。
「本当だ。秀斗さんだ」ジャージ姿の3人が声をあげた。自転車が近づいて来る。自転車の少年も気づいたようだ。自転車のスピードが上がる。自転車の少年は、自転車に乗ったまま前のカゴに乗ったボールを取り、グランドの少年達目掛けて蹴り込んだ。瞬間バランスを崩して自転車は倒れ、自転車に乗った少年がジャンプして自転車から離れた。自転車の後輪が回っている。倒れた自転車をそのままにして自転車に乗って来た少年はフェンスを飛び越えてグランドに入った。
自転車の少年が蹴ったボールは、ジャージを着た少年の1人にぴったり合っていた。「タジマール!回せ。みのりが鬼だな」ジャージを着た少年の1人はタ士丸俊哉だった。自転車に乗った少年が蹴ったボールを胸でトラップしてそのままリフティングしていたタ士丸は、自転車に乗った少年の声が掛かるとリフティングしていたボールを2人のジャージ姿の少年の方に向かって浮き球のパス。ジャージ姿の1人がヘッドで受けて、そのまま頭でリフティング。「たくしー、いいから回せ」
たくしーと呼ばれた少年が頭のリフティングを足のリフティングに変えて直ぐ、もう1人のジャージ姿の少年にパス。「ゆきと、いいから回せ」と自転車に乗って来た少年が言った瞬間、普段着の少年は、持っていたボールとバッグを離してボールを取りに入った。
4対1のボール取り(この時代は鳥カゴと呼ばれていない)が始まる。ジャージ姿の少年達は3本線の入ったトレーニングシューズを履いていたが、普段着の少年だけは革靴を履いていた。
普段着の少年がボールを取りに行く、でも、ボールは止まらない。パスは、普段着の少年が動く足下を面白いように繋がる。段々とボールを回す少年達が近づいて四角形が小さくなっていく。それでも普段着の少年はボールを奪えない。動かされ振り回される。
「やめたー!」普段着の少年が叫ぶ。「この靴じゃ無理」「負け惜しみ言っても駄目だよ、みのり!」普段着の少年が立っているだけになってもボールは動き続けた。
「みのり!なんで来なかったの」ボールを動かしながら、自転車に乗って来た少年が聞いた。立っているだけだった少年が突然ボール奪取の動きになって、ボールを四角形からはじき出した。
「たくしとゆきとを迎えに行ってたら遅れた」
「えー!」
こうして、自転車に乗って来た諸宮と未来から遅れてやって来た榊野は再会した。
(続く)