アーセナルフットボールアカデミーのテストは、3日後の土曜日に行われる。テストについて明也は何も聞かされてない。父からは、普通に参加すれば問題ないと言われたが、基本英語は話せない。英語はプレミアリーグを現地音声でTV観戦して来た。だから多少わかるが、意思疎通するには、不十分だった。明也は、不安だったが、フットボールは、何処でやってもフットボールだからテストなんて気にしないでいつも通りやってみようと考えるようにした。
テスト当日、午前9時にアーセナルフットボールアカデミーに着くと同じようにテストを受けに来た明也と同年代の子供達が、100人はいた。明也は、その人数と多言語に圧倒されそうになった。皆、身長が1m70㎝以上あり、話している言葉も英語だけじゃ無かった。
やっと1m40㎝を超えたばかりの明也は、小ささが一際目立っていた。アジア系の選手は、明也以外にも数人いたが、日本人は明也1人だけだった。「何人がアカデミーに残れるんだろうか」明也は、不安を大きくした反面、九里ケ浜に残れる可能性というか、ホワイトボーイズでプレーを続けられる期待感も持つようになっていた。そんな明也の気持ちを父が知ったら激怒しそうなことだが。
今回のアカデミー入団予定人数は2人だった。U−13に2人の欠員が出た事が理由だった。欠員の理由は明らかになっていない。いずれにせよ50人に1人しか受からないようだ。そして、欠員は、ディフェンダーに出ていたのでアーセナルが補充を予定していたのは、ディフェンダー系の人材だった。何も聞かされてない明也は、そんな事を知る由もの無かった。事前に知っていたら、どうなっていただろう。ロンドンに来ることも無かったかもしれない。
テストは、選手を10人のグループに分けて、20分のハーフコートゲームを繰り返すものだった。ゲーム前のアップ時間はほとんどなく、ゲームをしない時間がアップだった。フルピッチ2面を使ったハーフコートは、4面あり、2チームが休む事になる。ルールは勝ち残りだった。
明也の1本目は休みで、上手い事アップになった。明也は、いつもの様にリフティングを始めた。体をほぐす様に動かしながらリフティングを続けている。途中にハイボールリフティングを入れて体を動かす。皆それぞれが自分なりのアップをしていたが、明也だけがボールを離さず地面に落とすことなくアップを続けた。その姿は、周りにプレッシャーを与えていた。「この日本人はなんて奴だ」色々な国の言葉でそんな事が囁かれている。
明也のボール技術が、他の選手の緊張感を一層高める事になった。
明也グループがゲームになった。勝ち残ったチームとのゲームは、体の動きもスムーズになっていたので明也のグループは、直ぐに連係が出来ず、立て続けに失点した。
ピッチの外を見ると負けたチームの選手は、着替えをしている。このテストは負けたらその時点で終わりだったのだ。個の能力を見るだけのテストでは無かったのだ。このままゲームが終わると、明也は帰宅となる。本国送還となるか、別のチームの入団テストを受けなおすかになってしまう。
(続く)