九里が浜FCと市山FCは、どちらが勝っても全国選手権初出場となる。市山FCは、習知野FCと八幡台FCという強豪チームに4-1、3-0と圧勝して勝ち上がった。習知野FCのGK那須が4失点したのは九里が浜戦以来の事で、八幡台が完封されたのも県内大会では初めてだった。
トーナメントで勢いに乗ったチームは手に負えないことがある。U-15県選手権で優勝した時の九里が浜FCも勢いに乗っていたが、フットボールは、別次元のものだった。勢いに乗った相手との対戦を未来の子供達は、警戒しながらも楽しみにしていた。中林がいなくなって、攻撃の破壊力は見劣りするかもしれない。だが、タ士丸が入った攻撃は流動性が増す。未来の子供達は、上手いタ士丸か、怖い中林かを比較するのは無意味だと思っている。だから中林不在の淋しさを感じても不安を感じてなかった。
ファイナルの会場は、天地台運動場。Qファイナルの会場と同じ陸上競技のトラックのあるスタジアムだ。Qファイナルとは違い雨ではないのでピッチは多少よくなっているようだが、ペナルティエリアのゴール前は芝が剥げている。
市山FCは4-3-3の並び、中盤が2アンカーの実質4-2-1-3だ。攻撃的な感じはしない。強豪チームを撃破した攻撃力は並みのものではないのだが。
九里が浜FCの並びは、いつも通りの3-4-3(3-1-3-3)中林の位置にタ士丸を置き、フォワードは右に細野、左に市井、中盤は右から阿部、東城、西塚、アンカーに諸宮。ディフェンスは宇能、海東、唐草。キーパー一清は不動。
市山FCのキックオフ。ゆっくりした立ち上がりとなったファイナルだった。両チームとも慎重にゲームに入ったようだ。中盤のボールの奪い合いが続く。九里が浜FCは、マイボールの時はセーフティなボール回しを続ける。市山FCのボールへの寄せは速く、踏み込みもいい。未来の子供達は、安全にボールを繋ごうとしているせいかボールロストしないが、自由にできない。決定的な崩しはできない。バックパスが多くなり、攻撃のやり直しを繰り返している。市山FC の選手は、とても知的な動きをしている。予測力もかなり高いレベルにあり、九里が浜FCの戦ったどの相手よりも強力だった。九里が浜の仕掛ける攻撃は、全て読まれている。パス交換からは、決定的な崩しに繋がらない。
パスの崩し、ボールを走らせる攻撃は、開始直後の時間帯ではまだ厳しいようだ。未来の子供達は、市山FCのスキを探すように、我慢比べする気持でボールを動かし続けていた。九里が浜FCは長短のパスを繋ぎながらサイドからのドリブル攻撃を入れ始める。市井と細野がサイドチェンジでできたスペースで突破を試みる。だが、市山FCの両サイドバックは、1対1がとても強かった。市井のフェイクや瞬間芸が通じない。細野のスピードでも振り切れない。
そんな局地戦が続き、時間が経過していく。我慢比べに先に痺れを切らせたのは、九里が浜だった。諸宮から宇能に出された横パスが弱く、そこを狙われていた。九里が浜はあっという間のショートカウンターを食らい、海東が振り切られ、唐草がクリアするが市山コーナーキックになる。両チーム共にシュートまでいくことなく25分が過ぎていた。
市山のコーナーキックは、1m80cmはある選手3人がペナルティエリア内に入っている。未来の子供達より10cm以上大きい。一清と同じかそれ以上だった。3人は一清を囲むような位置取り。九里が浜陣右サイドからのコーナーキック。キッカーは中盤センター。フォーポストに速いボールが入る。一清は囲まれてボールに寄せられない。フリーでジャンプした最も長身のフォワード選手の完璧なヘッドでゴールネットが揺らされた。
セットプレーからの失点。これまで一清一人で守って来たゴールマウスが簡単に破られた。一清を押さえられると九里が浜の守備は脆かった。この失点は未来の子供達に精神的なハンデを負わせてしまう。フットボールにおけるメンタル効果は恐ろしい。未来の子供達はそれまで優位だった気持ちが一転劣勢になり、臆病なプレーを繰り返すようになってしまう。臆病なチームは必ずミスをする。ミスが致命傷になる。失点から5分後、連携ミスからショートカウンターを受け、今度は一清のミスも加わり2点目を献上してしまう。
0-2、未来の子供達は絶体絶命のピンチを迎えてしまった。
(続く)