U−15ファイナル
(まだ全国大会ではない。地域大会の決勝戦)
習知野FC vs 九里が浜FC
この地域を席捲していた源FCや楽園台FCが、早々に姿を消して、同じ地区の古豪とでも言うべき習知野FCが、抽選の妙という運を味方にしながらも、ある意味順当に勝ち上がった。
強豪チームを次々撃破して、勝ち上がった九里が浜FC。別次元の世界から来たフットボールは、この時代のフットボールの常識を超え、見る者を驚かせていた。
フットボールは、楽しくなければならない。アイデアやイマジネーションを競わなければ楽しくない。そして技術がなければゲームにならない。ボールを蹴り始めた頃からそんなことを考えてフットボールをして来た未来の子供達は、決勝戦を迎えても、プレッシャーを感じることはなかった。未来の子供達は、決勝戦の対戦相手である習知野FCのプレースタイルが好きでは無かった。だから、そのスタイルを木っ端微塵にするくらいの気持ちでいた。決勝戦で戦う相手に対してリスペクトとするという気持ちは不足し、傲慢さが出そうになっていた。だが、何より楽しいフットボールをやりきるという使命感に溢れていた。
U−15ファイルは、全国大会と同じ、45分ハーフで行われる。九里が浜FCは、怪我明けの諸宮と怪我が完治していない細野を含め14人しかいない。心細い陣容だが、未来の子供達は全く気にしてなかった。やっと普通の時間でフットボールが出来る位に思っていた。
決勝戦のピッチは、よく手入れされていた。真冬にもかかわらず、芝はどこまでも緑だった。
習知野FCは、アップの時からエンジン全開だった。とてもU-15のアップとは思えないものだ。アップの激しさで相手を威嚇している様だった。これは、習知野FCの常套手段だったが、未来の子供達は、習知野FCのアップを見ていなかった。
九里が浜FCは、ロンドと呼ばれるボール回しをしていた。未来の子供達は遊んでいる様に楽しそうにも見えたが、ボール回しの勝負は真剣そのものだったので習知野FCのことを気にしてなかった。アップのロンドであろうと負けたくないのが未来の子供達だ。そんな未来の子供達のボール回しは超絶、ありえない速度でボールが動いていた。パスは速度と角度が絶妙でスペース(1m四方でオープンスペースになっていた)への出方もタイミングは絶妙だった。バスケットボールのパス回しよりも早くて正確に見えた。守備側も何をしてくるか予測して準備しているので見え見えのパスや動きは、直ぐにボールカットにつながり攻守交替となってしまう。
6対6のロンドは、ボールを持った攻め側が、パス10本繋げば1点というルールになっていた。東城と阿部が中心のグループと西塚と市井中心のグループ。先発布陣の右サイドと左サイドのグループ分けだった。東城のドリブルでマンツーマンが崩れパスコースが出来る。そこからは、ダイレクトパスが繋がり、守備側が後手を引く。だが、10本のパスがつながる前には守備側も立て直しているので攻守が変わる。西塚から始まっても同じ様になる。想像力の競り合いになるのがロンドだった。一瞬の緩みが、パス10本という失点に繋がる。体の角度と左右の脚位置を見越したパスとファーストタッチの正確さは当然の技術だが、次のプレー、その次のプレーをイメージするクールな頭と勝負にこだわる熱いハート、これが未来の子供達のプレーを並み外れたものにしていた。未来の子供達が見せるプレーは決勝戦であろうとゲーム前のアップであろうと違いは無かった。フットボールは、どんなゲームも負けたくない。だから激しく、技と知恵の限りを尽くす。それだけだった。
九里が浜FCを威嚇する目的で、何度もダッシュを繰り返す強烈なアップをしていた習知野FCは、九里が浜FCのアップを見て逆に恐怖を覚えてしまった。どうしたらあんなことが出来るのかと。準決勝、伯東FC戦でロングボールばかり蹴っていた九里が浜FCを見ていた習知野FCは、自分達の目を疑った。準決勝で見た九里が浜FCと、今、目の前にいる九里が浜FCは、同じチームなのかと。
習知野FCは、蹴り込んで走ってという戦いを予想していた。だから持久戦、消耗戦の準備をし、フィジカル勝負を競うつもりでいた。最後はPK戦になっても構わないくらい思いだった。だが目の前の九里が浜FCは、とんでもないチームに見えてしまった。
両チームの選手がピッチに入り、キックオフのポジションについた。
習知野FCの布陣は、4-3-3ということだったが、実質4-2-3-1か4-4-1-1に見える。GKの那須がペナルティエリアで仁王立ちしている。偉そうな態度だ。九里が浜FCは、いつもの3-4-3。選手の並びから言えば3-1-3-3の方が分かりやすいかもしれない。怪我が完治していない細野をベンチに置いて右フォワードは堀内が先発。中盤アンカーに諸宮が戻ったのでほぼいつも通りの並びになった。
前半開始のホイッスル。決勝戦が開始された。
(第13話に続く)