200年のフットボールの歴史において古のアルフレッド・ディ・ステファノやエドソン・アランテス・ド・ナシメント、ディエゴ・アルマンド、リオネル・アンドレスを超え、史上最高峰に君臨する存在が、リオン・ファントマだ。
リオン・ファントマは、ガナーズアカデミーの最高傑作であり、ガナーズの黄金期をつくったレジェンドである。リオン・ファントマが登場するまで史上最高と言われたのは、リオネル・メッシだが、メッシが史上最高の称号を得たのは、そこにシャビとイニエスタがいたからだ。その時代最高のバルセロナを支えたのは、シャビ、イニエスタ、メッシであり、この3人は、それぞれのポジションで当時の世界最高レベルにあった。その3人が持っていた能力をリオン・ファントマは1人で持っていた。シャビの視野とボール保持力。イニエスタの時間と空間を支配する技術。メッシが唯一無二の理由である相手の動きを止めてしまう能力とゲームメイク、チャンスメイク、ゴールゲット能力。この3人のプレーをリオン・ファントマは、1人でやってしまう。シャビの化身、イニエスタの化身、そしてメッシの化身と形容され、その名から、リオネル・メッシの亡霊とも言われた。
リオン・ファントマがプレミアデビューしたのは、17歳の誕生日直後の事だった。初めてのプレミアのピッチは、宿敵スパーズのホワイトハートレーン。史上最大のノースロンドンダービーと言われた38-39プレミアリーグ最終戦にリオン・ファントマは登場した。
このシーズンのプレミアタイトルは、ノースロンドンの2チームに絞られており、勝点2差の首位で最終戦に臨むスパーズは引き分け以上でプレミア初優勝という悲願が目の前にあった。逆にガナーズは勝たなければ目の前で宿敵スパーズの優勝を当に生ライブで目にするというビッグマッチになっていた。
そんなビッグマッチになったノースロンドンダービーがリオン・ファントマのデビューマッチだった。このゲームはロンドンの街に留まらず、イングランド中が異常なまで注目していた。プレミア初タイトルが目前のスパーズは、直前9連勝でガナーズを首位から引きずり下ろし、一気に追い越すという勢いの中にいた。トッテナム地区は、ガナーズを抜いてトップに立ったことで歓喜に包まれていた。遂にガナーズ越えのシーズンフィニッシュが、プレミアタイトル付きで実現しようとしていた。この時トッテナム地区は、「狂気」という雰囲気に包まれていた。
ゲームは、スパーズが立ち上がりから猛烈な圧をかけ、ガナーズを呑み込んで圧倒する展開だった。開始から20分間、スパーズの勢いは、ホワイトハートレーンをワンサイドのハーフコートゲームにしていた。ホワイトハートレーンを埋め尽くしたスパーズファンは、スタジアムを揺り動かし、大歓声はロンドン中に響き渡ると思える程だった。
この時間にガナーズが受けたシュートは10本以上、決定機は5回もあった。もし、その内1回でもゴールネットを揺らしていたら、リオン・ファントマの物語は、まだ始まらなかったかもしれない。リオン・ファントマは、鳴りを潜めていた。と言うより、ボールを奪おう、スパーズの攻撃を止めようと守備に追われていた。
フットボールは、流れがある競技である。流れの中で得点をあげられないと、必ずそのツケを払うことになる。スパーズの払ったツケはあまりにも大きかった。
スパーズの猛攻が収まり、ガナーズが戦線をセンターゾーンまで戻して、ゲームはこう着状態になった。互いにシュートまでいけない状況が続いた。
鳴りを潜めていたリオン・ファントマに必要なのは、初めてのトップリーグに適応する時間だけだったのだろう。前半も残り5分となった時、リオン・ファントマは、既に覚醒を終えていた。中盤でこう着状態にあったゲームは、リオン・ファントマがボールを押さえると一転した。ファントマが密集をドリブル突破する。
ホワイトハートレーンを埋め尽くしたスパーズファンの目に映ったのは、ピッチが突然スロー映像のスクリーンに変わり、1人だけ早送りする様な動きの選手がいたことだった。背番号28をつけたガナーズの新人選手が1人だけ動いている。この瞬間スパーズの選手は、何もしていない、何も出来なかった。唯ガナーズの新人選手を目で追うだけのプレーだった。そして失点。ガナーズが先制して前半終了。
タイトルレースの立場は、逆転した。
背番号28:リオン・ファントマの名前は、ホワイトハートレーンを埋め尽くしたスパーズファンに強く刷り込まれた。
しかし、後半が始まると、スパーズは前半の失点が嘘の様に、激しい闘志でガナーズを押し込んだ。誇りと意地のぶつかり合いは、当にダービーマッチそのものだった。ガナーズも踏ん張り、自陣ゴールの枠内に飛ぶシュートをことごとくブロックする。もう戦術やテクニックで語るゲームではなくなっていた。
後半30分までは、スパーズの激しい圧が続き、同点ゴールも近そうなムードはあった。だが、流れの変わり目は、必ず来るものだ。それがフットボールだから。そして、そこには流れを無逃さない選手がいるものだ。天に選ばれたプレーヤーが。それがこのゲームのリオン・ファントマだった。ボールが自らの意思でファントマの下に向かうように動いていた。リオン・ファントマがボールを押さえたのは、自陣だったが、前方は広く開いていた。
ここでリオン・ファントマが見せた50m以上のドリブルは、またもファントマだけが動いていた。ゴールキーパーまで何人が抜かれたのだろう。誰もただ脇を通るファントマを見送るだけだった。ホワイトハートレーンに戦慄が走った。留めを刺されたに等しい2点目のゴール。だが、リオン・ファントマの衝撃は、まだ続きがあった。消沈したスパーズのキックオフボールをガナーズが直ぐに奪う。そして前線のスペースに向けフィード。クリアの様なボールの行く先にリオン・ファントマが向かっていた。この先の展開は、スパーズにとって痛々しいものだった。スパーズの選手がブロックやスライディングをしているが、どれも的外れでリオン・ファントマの残像に向かっている様だった。残り10分を切って留めの3点目、スパーズの優勝は夢のまま終わり、ホワイトハートレーンは、深い悲しみに包まれた。スタンドを後にするスパーズファンの足音はホワイトハートレーンに悲しくこだましていた。タイムアップまでスタジアムに残ったファンは数えられる程僅かだった。
38-39プレミアリーグ最終戦、ノースロンドンダービーは、グーナーにとって史上最高の結末、ホワイトハートレーンの歓喜であり、リオン・ファントマという新しいヒーローも誕生した。しかし、ホワイトハートレーンは、スパーズファンで埋め尽くされていたので、グーナーは、これを生で見ることができなかった。だから、このノースロンドンダービーは、グーナーが語るよりも、スパーズファンが、「ホワイトハートレーンの悪夢」「ファントマの恐怖」として語り継ぐ様になった。
リオン・ファントマの伝説は、ホワイトハートレーンで始まった。